最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)1252号 判決 1966年10月21日
上告人
平和金融株式会社
右代表者
前田幸盛
被上告人
福岡市
右代表者
阿部源蔵
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人代表者前田幸盛の上告理由第一点について。
原判決が、所論の点についてした事実関係の判断、とくに、本件当時における福岡市の印鑑証明事務取扱としては、原判示のように代理人が「委任する者の氏名押印」欄にその委任者本人の記名押印をすることも差支えないとする行政指導がされていたところ、右の取扱方法が当時の福岡市印鑑条例および同施行規則の趣旨に反するものといえないから、被上告人の職員たる川添吏員が、たとえ有住広美が本件印鑑証明書交付請求書の「委任する者の氏名押印」欄に右委任者たる請求人本人の記名押印をしたことを知つていたとしても、川添が広美の所持していた印鑑と委任者たる請求人本人の登録印鑑とが同一のものであると誤認したことについて過失が認められない以上は、川添において右請求書を受理しても職務上の注意義務に違背するものといえないとした判断は、その挙示する証拠に照らせば当審も正当としてこれを支持することができる。
原判決には所論のような違法はなく、所論は結局、原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するに帰し採用しがたい。
同第二点について。
原判決は、川添吏員において有住広美が申請者本人でないことを知悉していたことを認定したうえ、たとえそうだとしても、同吏員に過失がない旨を判断しているのであつて、原判決には、所論のような違法はない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)(草鹿浅之介は病気につき署名押印できない。)